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スクリプターとは何か

スクリプターは撮影準備から撮影・編集・音の仕上げまで、作品作りの様々な段階で情報を記録・管理する係である。「記録(係)」とも呼ばれる。つねに監督に寄り添い作品を作りあげる重要な役割だ。また、各部をつなぐコーディネーター的な役割も果たす。

スクリプターになるには、先輩スクリプター(=師匠)について、基本的な技術と「物づくりの心」を約半年から1年かけて学び、独り立ちするのが一般的だ。いわば徒弟制度である。

その仕事は多岐にわたっており、また「どこまでやればよい」ということがない。同じスクリプターと言っても人それぞれやり方が違い、さらに時代の流れでデジタル機器を使うなどの新たなやり方も出てきている。

しかし作業の本質は変わらない。今回は筆者の東映京都撮影所での経験から、基本的な仕事内容を説明する。


撮影前の準備

1.台本を何回も読んで内容をつかむ。
人間関係やストーリー中に経過する日数や時間の長さを確認する(現代劇の場合は小道具の時計の時間を合わせるので時間設定も)。場所などを整理し、まとめる(写真1、2、3)。


写真1 台本整理(日割り)Photo:谷慶子

写真2 台本整理(場所別シーンの整理)Photo:谷慶子

写真3 台本整理(ストーリー展開などを一覧にする) Photo:谷慶子

2.ストーリー上の疑問点を解決する。
台本はつねに完璧というわけではなく、書き手の意図が読み取りにくい場合や、見逃されたミスが残っている場合がある。スクリプターは、ストーリー上の不明部分をあらかじめ解決しておき、誰に聞かれても答えられるように、また必要があれば監督に意見が述べられるようにしておく。

3.漢字の読み(特に地名や人名)を調べ、演出部と統一する。
意味のわからない言葉がなくなるまで調べる。

4.各シーンの長さを計算する。「タイムの割り出し」と言う。
たとえばテレビの場合、1時間枠のドラマはコマーシャルなどを除くと実質約45分の長さ(「尺」と言う)になる。台本(シナリオ)が全体で45ページであれば、1ページを1分で仕上げればオーバーしないことになるが、なかなかそうはいかない。台本が全体で何ページあり、各シーン(場面)の長さがどのくらいであればちょうど良いのかをスクリプターはあらかじめ計算し、予測しておく。


写真4 実際の台本 Photo:谷慶子

「タイムの割り出し」を実際の台本で見てみよう。写真4で、右上にある「22」という数字は、「シーン22」を意味する。「シーン22」の下に書いてある「0.1」という数字はこのシーンの長さをページ数で表したものだ。ページ下に赤字で書いてある「6.3」はこのシーンの「目標タイム」を指す。この作品は台本全体のページ数が66.8ページで70分の作品であるから、1ページあたりは4200秒÷66.8ページ=62.874秒。0.1ページあたりの「目標タイム」は6.3秒となるのである。

さらに、スクリプターは経験と勘を頼りに、実際に撮ったシーンを編集した場合の尺も割り出す。これを「編集尺」と言う。「目標タイム」と「編集尺」を照らし合わせ、現在のシーンが基準の長さに対して、どれくらいオーバーしているか、足りないかを調べる(たとえば、6.3秒が「目標タイム」のシーンに対して、「編集尺」が15秒であれば8.7秒オーバーとなる)。それを毎日積算していき、全編撮り終わった時に長さが大幅にオーバーしていたり、足りなかったりすることがないよう、監督に「今どれくらいの編集尺になっているか」を報告し、演出で調整してもらう。

5.その他の準備
衣裳/小道具・美術/殺陣/CGなどの打ち合わせに参加する。全ての資料は台本に書き込んだり貼ったり綴じ込んだりする。資料を分けないで一冊で全てがわかるのがスクリプターの台本である。


撮影開始後の仕事

撮影開始後のスクリプターの主な仕事はふたつある。

1.カットの「つながり」を見ること。
ドラマは「シーン」と呼ばれる「場面」と、その中にある「カット」というひとつひとつの「画」(え)で構成される。撮影はシーンごとに行うが、カットは能率的に撮影を進めるために、カット1から順番には撮らないことが多い。たとえば、ひとつのシーンに8カットの画がある場合、同じようなアングルのカット1、4、8と撮って、後から間のカットを埋めていくことがある。

その時うっかりしてグラスを持っていた手が左右違っていたり、飲み物の量が変わっていたり、「泣き」のシーンでの涙の量、セリフの感情の入り方、振り返りのタイミングや方向などが違っていたりすると、編集したとき違和感が出る。そうならないよう「つながり」を見るのがスクリプターの大きな役割である。

2.「編集リスト」と「ネガ送り」という2種類の書類を毎日書くこと。
これらは、その場にいない編集部に現場からの情報を伝えるための資料である。

・「ネガ送り」
「ネガ送り」はシーンいくつのカットいくつをどの順番で何テイク撮り、何秒で、どれがOKかということを間違いなく記録するインデックスのようなものである。編集部が、どの画がOKなのかを判断するための参考資料となる。


写真5 ネガ送り Photo:谷慶子

・「編集リスト」
「編集リスト」は1カットにつき、1枚作成する。そのカットのカメラサイズ、セリフとアクションの内容、タイミング、タイムコード(ある画が、その録画メディアの何時何分何秒のところに録画されているかを示す数値)、どういう編集をして欲しいのかを書き込む。編集は現場にいないので、監督がそのカットをどんな意図で撮ったのかを伝えるためのものでもある。


写真6 編集リスト Photo:谷慶子

1日100カット撮れば編集リストを100枚書くことになるが、最近は台本にまとめて書き込む形(写真7)や、デジタル化してタブレットに台本を取り込んで書き込む形(写真8)などもあり、進化している。


写真7 編集台本バージョン Photo:谷慶子

写真8 タブレットバージョン Photo:谷慶子

撮影現場での仕事の流れ

では、実際の現場での仕事の流れを見てみよう。

1.テスト前
現場ではまず、「段取り」と言って、これから撮影するシーンの演出・演技をスタッフ一同で確認する。その際、監督が芝居の区切りや画面の構図を決める「カット割り」を発表するので、スクリプターはカットナンバー(シーンごとのカットの通し番号)を決める。また、衣裳や小道具を確認する。

スクリプターは、つねに監督やカメラマンの言葉には聞き耳を立てておく。俳優の自主練習の際にも、間違ったまま覚えてしまわないよう、セリフをチェックする。

2.テスト
本番を想定して全てを見る。セリフは間違ってないか、「つながり」はどうかを確認し、ダメな時は訂正する。この時、カメラサイズやズーム、ピン送り(ピントの移動)、移動のタイミングなども把握する。タイムを計る。


写真9 俳優の北大路欣也さんとセリフの確認をする筆者(右) Photo:谷慶子

3.本番
助監督が持つボールド(カチンコ)のカットナンバーが間違ってないか確認する。タイムを計り、「つながり」を見る。特にカットの編集点(編集上のカットとカットのつなぎ目)の動きや目線、セリフを確認し、素早くメモする。そのカットでどこからどこまでを撮ったかチェックする。


写真10 撮影中の筆者(写真中央)。首からストップウォッチ、右手にはペン、左手には台本とリスト、俳優の動きを見逃すまいと見つめる Photo:谷慶子

4.カットがかかった後
「つながり」がスクリプター的にOKかどうかを瞬時に判断する。必要な時はNGを出してすぐに撮り直してもらう。音だけNGの場合はSO(サウンドオンリー)を録る必要があるか判断する。

アクション、セリフ変更、タイム、OKテイク等を自分の台本へメモ。スクリプターの台本は真っ黒になっていく(写真9、10)。


写真11 元の台本(撮影前) Photo:谷慶子

写真12 メモを書き込んだ台本(撮影開始) Photo:谷慶子

撮影をしている中で、監督とスクリプターの関係次第では、演出や、さらに撮っておいたほうが良いカットをアドバイスしたりする。監督の意図をわかっているので、俳優の相談に乗る場合もある。

5.その日の撮影終了後
台本のメモを清書し、「編集リスト」を作成する。「ネガ送り」と「編集リスト」を提出する。

ワンカットずつの撮影タイムをもとに「編集尺」を割り出し、「目標タイム」と比較。監督に報告する。翌日の予習。

撮影後の仕上げ

すべての撮影が終了し、クランクアップを迎えた後は、さまざまな仕上げの作業を行う。

1.通し編集
監督に見せる前に編集技師とスクリプターで、編集の意図が間違っていないかを確認しながら編集された映像を最初から最後まで見る。その際、全体で何分オーバーしたか、どこを切るかを確認しながら、さらに良くする方法を考える。監督とスクリプターの信頼関係によっては、監督に一任されてほぼ「完成尺」(完成作品と同じ長さ)にしておく場合もある。

2.監督ラッシュ
試写室で監督以下、カメラマン、音の仕上げスタッフ等が参加し、編集したものを通して見る。監督の意向を聞いて直しつつ完成尺にしていく。テレビの場合はロール(CM)割りを行う。

3.オールラッシュ
監督ラッシュ(上記)メンバーに加え、プロデューサーが参加する試写を行う。通して見たのちにプロデューサーサイドからの直しに対応する。劇中タイトル(ドラマ内に出てくる場所や人物名など)の再確認。

4.音楽・効果音の打ち合わせ
音の仕上げチームは現場の録音部とは別なので、必要に応じて撮影時の状況や、監督の意向なども伝える。スクリプターは、どこでどんな音を録ったかを把握しているので、音を探す作業を手伝うこともある。音楽のインアウト(始めと終わり)のタイミングや、効果音を確認する。

5.オンライン作業
カラコレ(色合いの補正)、CG合成、タイトル(メインタイトル、劇中タイトル、エンドクレジットなどすべての文字情報)入れなどを行う作業に立ち会う。バレ(映ってはいけないものが映っていること。たとえば時代劇に電線など)がないか、合成が正しく入っているか、劇中タイトルが予定通りに入っているかなどを確認する。

6.MA(整音作業)
MA中、スクリプターは音のズレがないかを確認したり、音楽や効果音のタイミングによっては編集を直したりする場合があり、その対応をする。音楽を入れて見る最初の観客として意見を求められることもある。


試写

完成した映画を関係者などで見る。画や音のノイズはないか、なにか抜けていることはないか、最後の確認を行う。


完成台本の作成

映倫(映画倫理機構)提出用や、テレビの場合は副音声用に完成台本を作成する。実際に収録されたセリフ通りに台本を直し、劇中タイトル、エンドタイトル(エンドクレジット)、音楽なども明記する。

この作業を経て作品は完成し、スクリプターの仕事はようやく終わる。

最初に書いたように、ここで説明したのはあくまでも筆者の経験に基づいた基本的な仕事内容であり、仕事のやり方、俳優や監督や編集へのアプローチの仕方などは人それぞれである。だがいずれにしても、スタッフ間を「つなぐ」コーディネーター的な役割など、表には見えにくい仕事も含め、スクリプターが作品作りにとって、なくてはならない重要な役割を果たしていることが、おわかりいただけたかと思う。(執筆:谷慶子)