お知らせ

2022.05.27 シンポジウム:カメラを持った女——ジェンダー、創造行為、労働

女性映画人の活躍と映画業界における性加害の顕在化を背景に、日本映像学会第48回大会は女性の作り手に焦点を当てたシンポジウム「カメラを持った女——ジェンダー、創造行為、労働」を開催します。

第1部では、1950年代の日本映画の黄金時代に独立プロや木下惠介監督の作品で「お母さん」を演じた名優・望月優子が監督したドキュメンタリー『ここに生きる』(1962年)をオンライン配信します。そして、日雇い労働者のための政府の失業対策事業打ち切りに反対する「教宣映画」でありつつ、女性や子どもの日常を圧倒的な生々しさで捉えたこの作品について、鷲谷花(「日本映画における女性パイオニア」プロジェクトメンバー)が講演を行います。

第2部「言葉・身体・記憶——映像作家の実践」では、ドキュメンタリー、メディアアート、商業映画の世界で活躍する熊谷博子、山城知佳子、横浜聡子の三氏をお招きし、斉藤綾子日本映像学会会長を交えた座談会を開催します。ご自身の作品とその制作/製作プロセスを中心に、戦争や基地の暴力と記憶、労働、身体、作家性、言葉、ジェンダー・セクシュアリティなどについて対談していただく予定です。

2022年6月4日(土)
シンポジウム:カメラを持った女——ジェンダー、創造行為、労働
(オンライン開催)

14:00 開会のご挨拶(木下千花、プロジェクト代表)

Part 1
14:05 講演「女たちの声、子どもたちのまなざし―『ここに生きる』(望月優子監督)の映した失業、貧困、労働」(鷲谷花)

休憩(14:45-15:00)

Part 2
15:00 座談会「言葉・身体・記憶——映像作家の実践」
登壇者:熊谷博子(映画監督)、山城知佳子(映像作家)、横浜聡子(映画監督)、斉藤綾子(プロジェクトメンバー/日本映像学会会長)
司会:木下千花

【お申し込み】
下記のリンクより、必要事項をご記入の上、お申し込みください。
参加費は無料です。
ウェビナー形式でのオンライン開催となります。
https://us06web.zoom.us/webinar/register/WN_VbilJD6fS9eaxxYPF7MWUQ

【登壇者プロフィール】
熊谷博子:映像ジャーナリスト、映画監督。1975年から番組制作会社のディレクターとして戦争、麻薬などの社会問題を扱ったドキュメンタリーを数多く制作。1985年、フリーの映像ジャーナリストに。『よみがえれ カレーズ』(土本典昭氏と共同監督、1989年)、『ふれあうまち』(1995年)などを監督。その後、『三池~終わらない炭鉱(やま)の物語』(2005年)、NHK・ETV特集『三池を抱きしめる女たち』(2013年)、『作兵衛さんと日本を掘る』(2018年)といった一連の作品において、炭鉱の歴史、労働と差別などを取り上げてきた。

山城知佳子:映像作家、美術家。映像、写真、パフォーマンス、インスタレーションなどを用いて沖縄の歴史と政治的状況、東アジアとアメリカの関係を詩的かつ批評的に問う作品を発表。代表作に《OKINAWA墓庭クラブ》(2004年)、《オキナワTOURIST》(2004年)、《アーサ女》(2008年)、《あなたの声は私の喉を通った》(2009年)、《コロスの唄》(2010年)、《肉屋の女》(2012年)、《創造の発端—アブダクション/子供》(2015年)、《土の人》(2016年)、舞台《あなたをくぐり抜けて》(2018年)、《チンビン・ウェスタン 家族の表象》(2019年)、《リフレーミング》(2021年)など。

横浜聡子:映画監督、脚本家。『ジャーマン+雨』(2006年)、『ウルトラミラクルラブストーリー』(2008年)、『俳優 亀岡拓次』(2016年)、『いとみち』(2021年)といった長編作品では、独創的な登場人物や予測不能な物語が展開していく先鋭性とともに、友情や連帯が情感豊かに織り込まれた世界を描く。『ちえみちゃんとこっくんぱっちょ」(2005年)、『おばあちゃん女の子』(2010年)、『真夜中からとびうつれ』(2011年)、 『りんごのうかの少女』(2013年)、『トチカコッケ』(2017年)などの短編映画でもユニークな女性登場人物が数多く登場し、青森を舞台にした作品が多いのも特徴のひとつ。

2021.08.19特別上映会「望月優子と左幸子—女優監督のまなざし」を開催しました。

戦後、日本では大手映画撮影所の助監督への応募資格が「大卒男子」となり、長編劇映画の監督になるエリートコースが女性には事実上閉ざされた。そんななか、第一線の演技者として現場で培った経験と信頼に基づいて監督業に進出し、優れた作品を世に問うたのが、田中絹代をはじめとした女優たちである。今回の上映会では、これまで「女優監督」として紹介される機会が少なかった望月優子と左幸子の作品を上映し、フェミニスト映画史を牽引する登壇者によるトークを行うことで、労働運動や人種など社会問題をみつめた両者のキャリアに光を当てる。

【監督紹介】
望月優子(1917-1977)
軽演劇、新派、新劇の舞台を経て、『四人目の淑女』(48、渋谷実)で映画デビュー。『日本の悲劇』(53、木下惠介)に主演し、毎日映画コンクール女優主演賞を受賞。『晩菊』(54、成瀬巳喜男)、『米』(57、今井正)、『荷車の歌』(59、山本薩夫)と多様な母親役を演じ、とりわけ農山漁村の働く母のイメージを象徴する存在となる。『海を渡る友情』(60)以下3作品を監督、テレビ作品の演出も手がけた。1971年に社会党の公認を得て参議院議員に当選、一期を務めた。

左幸子(1930-2001)
富山県出身の女優・監督。戦後演劇活動と教師の二足のわらじを履きながら、52年新東宝『若き日のあやまち』(野村浩将)の主役で映画デビュー。日活の『女中ッ子』(55、田坂具隆) や『幕末太陽傳』(57、川島雄三)などのエネルギッシュな演技で注目された。62年にフリーになり、当時夫だった羽仁進監督の『彼女と彼』(63)および『にっぽん昆虫記』(63、今村昌平)でベルリン国際映画祭女優賞を日本人初受賞。作品はほかに『飢餓海峡』(65、内田吐夢)『軍旗はためく下に』(72、深作欣二)など、 主演・監督した『遠い一本の道』(77)。戦後を代表する女優の一人となった。

【上映作品紹介】
『おなじ太陽の下で』(1962、16mm、50分)
在日米軍兵士と日本人女性の間に生まれた「混血児」として施設で生活する児童が、地元の小学校の普通学級に通いはじめるが、警戒する周囲の日本人たちから孤立し、いっそう傷ついていく―。前作『海を渡る友情』の、故国への帰還を「望ましい解決」とした結末に対し、本作では混血児を「日本人」として社会に包摂する必要が訴えられる。主人公の役は、映画と同様の境遇で施設で生活していた児童が演じた。
製作:東映教育映画部/監督:望月優子/脚本:片岡薫、望月優子/撮影:中尾駿一郎/音楽:芥川也寸志/出演者:上原二郎、ジェーン・コーリー、中村雅子、南廣辻伊万里

『海を渡る友情』(1960、35mm、49分)
望月優子の初監督作品。前年から本格的に開始されていた在日朝鮮人の帰国事業を題材に、朝鮮総連の支援も得て製作された。今は朝鮮民主主義人民共和国となった郷土への帰還を望む家父長(加藤嘉)と、異郷への移住をためらう日本人の妻(水戸光子)、そして自分を日本人だと信じて育ったため、父親の決めた「帰還」に激しく反発する小学生の息子(野口英明)の葛藤を物語る。
製作:東映教育映画部/監督:望月優子/脚本:片岡薫/撮影:中尾駿一郎/音楽:芥川也寸志/出演者:加藤嘉、水戸光子、野口英明、河口雄三、西村晃

『ここに生きる』(1962、35mm、40分)
全日本自由労働組合の委託により、当時国会で論議されていた失業対策事業縮小政策への反対運動の教宣映画として製作されたが、組合側には不評で、運動の場ではほとんど上映されなかった。女性、炭鉱離職者、被差別部落出身者など、失業対策事業に就労する多様な出自の日雇い労働者たちの生活を、記録的かつ抒情的な映像と語りで映し出す。朝鮮籍のカメラマン安承玟(アン・スンミン)による撮影が美しい。
製作:オオタ・ぷろだくしょん、全日本自由労働組合/監督:望月優子/撮影:安承玟(アン・スンミン)/音楽:伊藤翁介/ナレーション:矢野宣

『遠い一本の道』(1977、35mm、112分)
戦後を代表する女優左幸子が企画・製作・監督を務めた渾身の一作。日本の高度成長を支えた勤続30年の国鉄保線員とその家族が合理化に反対し、労働運動の中で葛藤する姿を丁寧に描く。北海道の大地を走るSLの映像とドキュメンタリータッチのインタビュー場面をファミリードラマにうまく取り入れた演出が秀逸。労働者の問題を妻や子どもの視点から「生活」の問題として捉えたフェミニスト左幸子の視線が光る。
製作:左プロダクション/監督:左幸子/脚本:宮本研/撮影:瀬川順一、黒柳満/編集:浦岡敬一/音楽:三木稔/出演者:井川比佐志、磯村健治、長塚京三、市毛良枝、西田敏行、殿山泰司、左幸子

【登壇者】
斉藤綾子 明治学院大学文学部芸術学科教授。映画研究(映画理論、フェミニズム映画批評、戦後映画など)。論文に「女が書き、女が撮るとき—日本映画史における二人の田中」『明治学院大学 藝術学研究』22号、2012年、13-31頁(https://bit.ly/3vuYSY6)。

鷲谷花 大阪国際児童文学振興財団特別専門員。映画学、日本映像文化史、昭和期の幻灯(スライド)文化史。共編著に『淡島千景 女優というプリズム』青弓社、2009年。

木下千花 京都大学大学院人間・環境学研究科教授。日本映画史、表象文化論。著書に『溝口健二論—映画の美学と政治学』法政大学出版局、2016年。